現役機や、世の中に残る部品が非常に少ない理由もあり、
少々緊張気味な作業となりました。
私達が普段使用しているネジの規格は新JISというものですが、
この当時の機械は旧JISであったり、
日本の自動車工業がイギリスから強く影響を受けた時代背景とも重なり、
イギリスインチという規格が使われていたりします。
築地活字の八光自動鋳造機は、製造当初からの仕様であったり、
年月の間に修繕されたものであったりの旧JISとイギリスインチの混成でした。
ちなみにプラス(十)ネジは、ほぼ存在していない時代ですので、全てマイナス(-)ネジです。
これが固着していると難儀です。
旧JISのネジやイギリスインチのネジは、ほとんど国内に無く、簡単には手に入りません。
最終手段はネジを切り直し、新JISで修理となりますが、
機械構造上、新規のネジを切りなおせない場所も多々あります。
主な違いはネジの微妙な太さや、ネジ山の間隔や高さです。
これを良く見極めて、作業を進めていきます。
(絶対にネジは無くせません。)
水冷管の向きも本体との兼ね合いがあり、重要です。
今回の修理は、二基の鋳型の冷却経路の詰まりや冷却水の漏れでした。
鋳型は鋳造する字の大きさごとに交換します。したがって、築地活字の工程と照らし合わせながらの分解、修理となりました。
この道何十年の鋳造職人のお二人と。
精密機械である鋳型について教わりながら。
鋳造見学会にお越しになられた方々はご存じかと思いますが、
瞬時に小数点以下3桁まで揃った鋳造を行う機械。
組み付けも構造に沿った順序があります。
私事として、
新活字ホルダーを制作する以前、クラシックカーのレストアの仕事をしてきたおかげか、
久々の古い機械と向き合う時間は、昔の作り手と向き合う時間でもあり、
姿勢を正すような気持ちになります。
無事に修理完了を迎え、とても光栄な仕事でした。
ついでに緊急停止が不具合を起こしていた一機を修理し、終了です。
今後も気持ちよく動いてくれる事でしょう。
皆様にご愛顧頂いております鉛活字は、
このような機械と熟練の操作手によって鋳造されております。
昔は情報伝達の基本リズムであった稼働音と、活字の生まれる瞬間。
構造むき出しの荒々しい機械が動く雰囲気は、
意外とゆっくり、不思議な心地よさを醸しています。
ご覧になられていない方は是非、
鋳造見学体験会へお越しくださいませ。
御協力企業
株式会社モノノフ
http://www.m-ar.jp/
内田ボールト 相模原営業所
http://www.mapion.co.jp/phonebook/M02013/14151/0427721381-001/